2010年5月28日金曜日

楽勝だね! 接続法半過去

接続法半過去と言うと思い出すのが、このイメージ、

ソルボンヌのフランス文明講座で使った教科書、Grammaire du françaisの中に出ていたものです。

これをはじめて見たときにはちょっとびっくりしました。たとえギャグにせよ、接続法半過去で話す大時代的人物というものが想定しうるなどとは思ってもいなかったからです。これが笑いになりうるということは、こんな人がいてもおかしくはない、というのが前提にあるということでしょう。それが意外だったのです。接続法半過去なんて古文みたいなもの、くらいに思っていましたから。

接続法半過去について、とりあえず教科書的な知識をまとめておきましょう。

まず語幹は、「直説法単純過去2人称単数形より、- sを除いたもの」(『新・リュミエール』、321頁)です。

ここに、以下のような活用語尾がつきます。

  - sse, - sses, - ^t, - ssions, - ssiez, - ssent

ここですぐさま、次のようなことに気がつくはずです。
  1. 直説法単純過去と接続法半過去は、3人称単数形においてはほとんど違いがない。直説法単純過去でi(in)型、u型の活用型を取るものについては、アクサン・シルコンフレックスが加わるだけである(例: il finit → il finît、il vint → il vînt、il eut → il eût、il fut → il fût)。a型の活用型を取る動詞では、さらにもともとなかった語尾の- tが加わる(例: il aima → il aimât)。
  2. それ以外の活用形では、必ずsが2つつき、そのあとに接続法現在の活用語尾(- e、- es、- ions、- iez、- ent)がついたような形になっている。

それにしても引っかかるのは、「直説法単純過去2人称単数形」というところです。よりにもよって、「2人称単数」です。誰も使わないであろう、という形です。おそらくは一生見ることがないであろう、という形です。

こう言い切ってしまっていいでしょう。tu travaillasなんて、現実にはほとんどありえない形です。そんなもの、すっと思い出せますか。いちいち、思い出せなければいけないのでしょうか。これを思い出してからでなければ、接続法半過去は作れないのでしょうか。

単純過去2人称単数を経由する説明の仕方は、ほとんどの参考書が採用しています(『新・リュミエール』以外に、『フランス語のABC』、『フランス文法の入門』、『魔法の仏文法』など)。不思議なくらいにスタンダードです。これはどこから来ているのでしょうか。フランスの文法書の中でこのような教授法が確立されていて、それに準じているのかと思ったのですが、そういうわけでもないようです。

先に触れたGrammaire du françaisでは、単純過去の2人称ではなく1人称単数を出発点にしていて、- er動詞は、たとえばparlerだったら、je parlaiの最後のiを取る、それ以外だったら、jeの活用形から最後のsをとる、たとえばfinirだったら、je finisのsを取る、というふうに説明しています。

もうお分かりでしょう。接続法半過去の語幹は、単純過去の語幹を、a、i、in、uといった母音のところまで含めて取り出せば作れる、というわけです(aima-, fini-, vin-, tin-, eu-, fu-, etc.)。そして、これを取り出す方法を説明する際に、単純過去の2人称単数を出発点にすると、説明が少しだけ簡単になる。出発点が2人称単数でなければならない理由というのは、じつはそれだけなのです。

ならば、出発点をむしろよく使う形である単純過去の3人称単数にしてはいけない理由があるでしょうか。il travaillaというのは、2人称単数のtu travaillasとちがって、知っていなければいけない形です。ここを出発にした方がはるかに現実的です。

そうすることの明確なメリットがあります。目的とする形が接続法半過去3人称単数なら、ほぼ自動的に(アクセントをつけ、必要に応じてちょこっと変えるだけで)作れてしまう(il travailla → il travaillât)。そして、それだけで住んでしまう確率は、かなり高い。さらにそうでない場合でも、接続法半過去の活用語尾について記した前述の法則の二番目を適用すればいい(je travaillasse, tu travaillasses, nous travaillassions, vous travaillassiez, ils travaillassent)。それだけの話です。

話は、少しだけ複雑になった。でも、じつは単純な話だし、実際の頭の労働ははるかに軽減されているはずです。

単純過去の3人称単数さえ(それだけ)知っていれば、接続法半過去は簡単に作れます。接続法半過去の活用は、じつは難しくもなんともないのです。

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