2010年10月14日木曜日

生きた地理学

『星の王子さま』の前回触れた箇所については、山崎説を敷衍した片木先生の解説がありました。

〔…〕もちろんフランス人の得意の皮肉である。〔…〕当時の航続距離で、中国とアリゾナを見分けなければならないフライトなどないし、ましてや夜間飛行中である。(片木智年、『星の王子さま学』、慶應義塾大学出版、144~145頁)
山崎庸一郎、『星の王子さまの秘密』(私、未見です)でも触れられていたところだそうです。前回のブログは、片木先生の本のこの記述に気づかずに書いていました。本はずっと手元においてあったのですが…、かたじけない。サン=テグジュペリが地理学を批判するその背景には、彼の飛行士としての実体験、その中で必要とされるような「生きた地理学」があるのだそうです。

この皮肉を訳の中でどう表現するのか。『星の王子さま』翻訳上の数ある難所のうちのひとつといえるでしょう。おそらくその辺の工夫をしているであろうと思われるのは、稲垣直樹訳です。
確かにね、地理の勉強はとてもぼくの役に立ちましたよ。なにしろ、おかげさまで、一目見ただけで、アメリカのアリゾナ州と中国の違いが分かるようになったのですからね。真っ暗闇で、どこを飛んでいるか分からなくなってしまったりしたら、なかなか役に立つものですよ、地理という代物は。(稲垣直樹訳、『星の王子さま』、平凡社ライブラリー、9頁)

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