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2020年2月13日木曜日

電子辞書「大学生モデル」は買うな⑧ 〜研究社セットをゲット!

英語強化型の大学生モデルに含まれる辞書のうち、リーダーズ、新和英大、英和活用大の3つのアプリは買わないほうがいいということでした。これらはみな研究社の辞書なので、まとめて「研究社セット」と呼ぶことにします。

この「研究社セット」は、人によっては使わずにすますこともできるかもしれません。しかし、多少使い勝手を犠牲にすれば、これら3つをまとめてゲットできるお得なパッケージがいろいろ存在しています。

1.研究社 Online Dictionary を利用する


進学する大学が決まったら、まず試してみて欲しいことがあります。「◯◯大学図書館 データベース」とGoogle検索して、自分の大学の図書館が提供しているデータベースを調べてみてください。そして、「辞書・辞典」のカテゴリーに「研究社 Online Dictionary」が含まれているか、確認してみてください。

Googleで調べられないときは図書館に直接問い合わせてみるといいでしょう。ついでに、学外アクセスが可能かどうかも確認しましょう。

OKなら、あなたの大学の学生と教職員は、以下のような研究社の代表的な辞書を、スマホやタブレットから無料で利用することができます。

リーダーズ英和辞典、リーダーズ・プラス、新英和大辞典、新和英大辞典、新英和中辞典、新和英中辞典、ルミナス英和辞典、ルミナス和英辞典、新編英和活用大辞典…

「研究社セット」もちゃんと含まれていますね。ここの出費がゼロになるのは、大きなアドバンテージです。

研究社 Online Dictionaryの検索画面は、スマホからでもとても見やすく使いやすいです。このすばらしいサービスが、多くの大学に広まるといいと思います。

2.高校生モデルに コンテンツを追加する

カシオ、シャープともに、電子辞書にコン­テンツを追加するさまざまな方法が用意されています。これを利用して、高校生モデルを大学生モデルに近づけることもできないわけではありません。もっとも、ほとんどの場合、同じ辞書をアプリで購入するほうが安く、使い勝手もよいため、コス­トパフォーマンスの点でこの方法はおすすめできません。

ただし、2018年以前の研究社のEx-wordなら、リーダーズ、英和・和英大、英和活用大の各辞典がまとめて追加できるこのデータカード(XS-KE06MC)が使えます。値段はかなりリーズナブルなで、定価は15,400円ですが、Amazonなどでは1万円ほどで買えるようです。

研究社 Online Dictionary が使えない学生の場合、このデータカードで「研究社セット」をゲットするという選択もありうるでしょうか。

しかしこれを買うということは、大学生活のあいだも高校時代と同じ電子辞書をメインで使いつづけるということを意味するでしょう。結局、どうしても電子辞書という形態にこだわりた­い(スマホなどは使いたくない、または使えな­い)、けれども大学生モデルを買う金銭的余裕はないというかた以外には、この方法は意味がない気がします。

3.大学生モデルの型落ち品を購入する

最新の大学生モデルは買わないとしても、大学生モデルを買ったまわりの学生と同じ辞書はいちおう持っておきたいと感じる人も多いかもしれません。そういう人は、もうひとつ選択肢として、これも検討してみてください。

大学生モデルでも、だいたい5年以上の型落ち品なら、Amazon、メルカリ、ヤフオクなどで中古を探せば激安で手に入ります。これを普段使いの辞書を補完する目的で併用するのです。

試しにEx-word XD-A9800という2010年のモデルを探してみたところ、ヤフオクでみごとに2,950円にて落札することができました。

大学図書館で研究社 Online Dictionaryが使えない学生にとっては、これが「研究社セット」を最安で手に入れる方法だと思います。

あくまでなかに入っている辞書(頻繁には引かないであろうもの)目的で買うなら、型落ち品で十分でしょう。引き出しの奥にしまっておいていざというときに使うだけならば、多少表示の美しさや使い勝手が劣っていても気にならないはずです。

2020年2月12日水曜日

電子辞書「大学生モデル」は買うな⑦ 〜理想の組み合わせ

大学生モデルの最新型の電子辞書を買うかわりにおすすめしたいのは、すでに言ったように、アプリで辞書を買いそろえることです。

もっと具体的に言うと、辞書by物書堂というアプリをiPhoneまたはiPadにインストールし、このアプリのなかの「ストア」で、必要な辞書コンテンツを個別に購入するという手順になります。(辞書by物書堂については、こちらのチュートリアルビデオをご覧ください。)

実際には、使い慣れた高校生モデルを引きつづき使いながら、自分のタイミングで必要なものを買い足していけばいいのですが、ここで私の考える、大学生が買いそろえるべき辞書アプリの理想の組み合わせを提案してみます。

選択は、英文読解に役立つ使用頻度の高い英和辞典を軸にしたアプリのセットを、英語強化型の大学生モデルに入っているものと同一あるいは同等の辞書をそろえるという方針で行っています。

簡単に言うと、

  • 「読むための辞書」はアプリで揃える。
  • 「書くための辞書」や専門用語辞書は、アプリの値段によってはより安い方法での利用を検討する。
です。

辞書アプリの理想セット

買うべき辞書アプリは以下の通りです。

価格はそれぞれ、新明解国語辞典1,920円、漢辞海3,060円、ウィズダム英和・和英辞典4,040円、ランダムハウス英和大辞典6,100円、オックスフォード現代英英辞典3,920円、小学館オックスフォード英語類語辞典2,820円、小学館オックスフォード英語コロケーション辞典2,820円。合計すると、24,620円です。

ただし、物書堂は毎年4月にセールを行い、辞書が大幅に値下げされます。2015年から5年連続で実施されており、セール価格も毎年ほぼ一定です。仮に去年2019年の価格その­ままのセールが今年も行われたとすると、上記の辞書のうち最後のふたつを除いたものが値下げされて、それぞれ、1,200円、2,000円、2,000円、3,800円、2,600円となります(ただし増税にともない、辞書の定価が若干上がっているので、セール価格も少し上がる可能性はありますが)。

そうすると、理想の辞書セットの値段は17,240円にまで下がります。

第2外国語の辞書が必要なら、これも同じセールのときにそろえましょう。昨年の価格どおりなら、2,800〜5,600円で購入できるはずです。

買うべきではない辞書アプリ

反対に、買うべきではない辞書アプリのリストも挙げておきます。

左から、リーダーズ英和辞典+リーダーズ・プラス(物書堂、1,2000円)、新和英大辞典(ロゴヴィスタ、14,000円)、新編英和活用大辞典(ロゴヴィスタ、11,000円)です。

すべて大学生モデルに入っている辞書ですが、他の辞書アプリと比べて高額です。定価でアプリをそろえたら、全部で37,000円。つまり、最新の電子辞書が買える値段になってしまう。洒落にならない…

リーダーズは、すでに述べたように、純粋な英和辞典としてというより、固有名詞や専門用語を調べるのに役立ちます。ぜひともこれがなければと思う機会は、大学の教養課程ではあまり多くないかもしれません。これだけでも持っておきたいという人は、物書堂のセールで購入しましょう(去年は8,800円で買えました)。

新和英大辞典と英和活用大辞典は、高度な英作文のために必要となります。すくなくとも教養課程のうちは、すべての学生にとって不可欠とは言えない辞書です。

いずれも使用頻度は高くないので、コスパが悪すぎます。オンラインなど、無料もしくはより安価な方法での利用を検討するほうがいいでしょう。

電子辞書「大学生モデル」は買うな⑥ 〜代わりの手段はいくらでもある

電子辞書の中身を一覧にしてみると、英語関係だけて大変な量です。この量だけでも圧倒されてしまい、4万円前後なら安いものだと、最新の大学生モデルを生協の勧めるままに購入してしまいがちです。

しかし、これらの辞書がすべての学生にとって不可欠というわけではありません。必要性は大学のカリキュラムに­よってまちまちなので、様子を見ながら必要なら手に入ればいいくらいに構えていればいいと思います。

けっして、慌てて決断しないようにしましょう。これらの辞書のうちのいくつかは、じつは無料でも使えるものが含まれているはずです。あるいはお金を払うにしても、新型の大学生モデルを購入するよりずっと安く手に入れる方法があります。

1. アプリの辞書を買う

一番おすすめしたい方法は、電子辞書に入っているのと同一あるいは同等の辞書をアプリのかたちで購入し、スマートフォンやタブレット上で利用することです。

スマホで辞書というと眉をひそめる人がいまだに多くいます。そのなかには、スマホの辞書について誤った認識を抱いたまま遠ざけている人がかなりいるようです。

電子辞書に入っている語学辞書のおもなものは、たいていモバイルアプリでも手に入り、スマホやタブレットにインストールすることができます。これらはもともと書籍の辞書として定評のあるもののデジタル版ですから、当然内容に問題はありません。ひとたびインストールすればオフラインで使用できますし、高い値段を出して買うものですからもちろん広告などは出てきません。

アプリの辞書は、同じ辞書を書籍やCD-ROMで購入するより安く手に入れられるのが普通です。それでも、電子辞書の内容をすべてそろえようとすると高くついてしまいますので、使用頻度の低いものは以下の別の方法で手に入れることを考えるべきでしょう。

2.iPhone、iPadの内蔵辞書を利用する。

アップルはiOS(iPadOS)ユーザーに各国語の辞書を無料で提供しています。スーパー大辞林、ウィズダム英和・和英辞典のほか、英英辞典としては大学生モデルに収録されているオックスフォード英英辞典が使えるなど、非常に充実した内容です。

Safariで単語選択して「調べる」をタップするなどして簡単にその意味を調べられるほか、特別なアプリを使えば、ダウンロード済みの内蔵辞書を一括検索することもできます。

3.大学図書館のデータベースを利用する

たいていの大学図書館はオンラインの辞書・事典データベースと契約しているので、学生や教職員はこれに含まれる辞書を無料で閲覧することができます。学外からのアクセスが許可されていることが多いので、スマホやタブレットからアクセスして、これらを電子辞書のような感覚で使うことも可能です。

なかでも、ジャパンナレッジと研究社 Online Dictionaryはきわめて有用で、内容だけで言えば、このふたつのデータベースだけでほとんど大学生モデルの電子辞書の代わりになるほどです。

ジャパンナレッジのほうは広く普及しています。下の表のように、英和大辞典、学習英和・和英辞典、英英辞典が引けるほか、専門用語に特化した英語辞書も充実しています。また、百科事典、国語・古語、漢和辞典、ヨーロッパやアジアの言語の辞典など、その情報量は圧倒的です。

これに対し、研究社 Online Dictionaryを導入している大学はまだ少ないようです。研究社の代表的な辞書が一括検索できるので、これがあれば英文読解だけでなく、英作文や専門用語対策にも大いに役に立つはずです。

ただし、オンラインですから利用環境の制限を受けますし、ログインなどの手間もあるので、英和辞典のように頻繁に引く辞書はアプリで購入したほうがいいと思います。いっぽうで、よほど頻繁に利用するのでないかぎり、英作文用の辞書や専門辞書はオンラインでも十分でしょう。

4.その他のオンライン辞書を利用する

それ以外にも、インターネット上にさまざまなオン­ライン辞書が公開されています。信頼性の高い辞書が無料で使えるケースもかなりあるので、知っておいて損はありません。

既存の辞書を広告つきで無料公開しているコトバ­ンクやWebIioのような統合型のオンライン辞書サイトは、すでにご存知のかたも多いと思います。朝日新聞が主体となって作られたコトバンクは、とりわけ百科事典を手軽に引けて重宝します。研究社の新英和・和英中辞典などさまざま英語辞書を一度に検索できるWeblioは、専門用語を調べたいときにも強い味方になってくれるでしょう。

また、名の通った英英辞典のなかにも、広告つきの無料オンライン版のあるものがかなりあります(たとえば、高校生モデルで採用されているオックスフォード現代英英辞典とロングマン現代英英辞典)。

既存の辞書ではないオリジナルコンテンツながら、すでに一定の信頼性と市民権を獲得しているオンライン辞書・事典もあります。膨大な英和・和英対訳データの集積である英辞郎は、ときには専門用語事典よりも頼りになるかもしれません。そして、いまさら説明不要のWikipediaも、貴重な情報源ですね。

2020年2月9日日曜日

電子辞書「大学生モデル」は買うな⑤ 〜なにが入っているのか

新学期が始まり、大学生協の電子辞書コーナーに行けば、新入生向けに「大学­生モデル」の新型が並んでいるにちがいありません。それらは例外なくカシオのEx-wordで、型番が「9800」で終­わる英語強化型と、「9850」で終わ­る理系強化型が並売されているのが普通です。価格はだいたい3万円台後半で、第2外国語が必要な場合はさらにコンテン­ツカードを追加購入する形です。

高校生モデルとのちがいを分かりやすくするために、大学生モデル(英語強化型)の英語辞書のおおまかな構成をまとめると以下のようになります。

高校生モデルと比較して追加されているのは③と④ですね。反対に、①学習英和は簡素化されています。

大学生モデルとは、これらの辞書をまとめて提供してくれるパッケージ商品です。そこに含まれる英語辞書は、読むための辞書、書くための辞書、それに専門辞書に分類することができます。

1. 読むための辞書

大学入学と同時にかならず用意しなくてはならないのは、すでに解説したように学習英和を補完する英和大辞典です。これは英文読解の道具として必須になります。

上の表の③のうち、英和大辞典にあたるのは、すでに触れる機会があった、ジーニアス英和大辞典、リーダーズ英和辞典とリーダーズ・プラス、それに研究社英和大辞典です。(ただし、この組み合わせの場合、リーダーズは、英和辞典としてよりは、固有名詞や専門用語を探すために使うことがほとんどになるでしょう。書籍のサイズも他より小さめです。そう言う意味で、他とはちょっと性格のちがう辞書です。)

そのほか英英辞典も、学習者向けの②に加え、英英大辞典とも言うべき、④のオックスフォード英英辞典(Oxford Dictionary of English)が入っています。

2. 書くための辞書

このほか、上級英作文のクラスの課題に対­応したり、英語でレポートや論文を書いたりするのに役立つ辞書もあります。大型和英辞典、類語辞典、連語(コロケーション)辞典などがこれに当たります。

表で見ると、③のう­ちの研究社和英大辞典と英和活用大辞典、および④のオックスフォード類語辞典、オックスフォード連語辞典などです。

3. 専門用語辞書

さらに、専門用語に特化した英語辞書もあります。上の表には入れていませんが、大学生モデルには、専門用語対策として『200万語専門用語英和・和英大辞典』が入っています。

なお理系強化型の場合、①学習英和にウィズダムが加­わるかわりに、②英英からロングマンが、③大辞典から新英和大・和英大が省略され、④のオックスフォード辞典は収­録されません。また、英語強化型にはない自然科学系の英和・和英(『理化学英和辞典』『自然科学系英和・和英大辞典』)が含まれているのが特長です。

2020年2月7日金曜日

電子辞書「大学生モデル」は買うな④ 〜大辞典はなにが必要?

たとえ10万語クラスの辞書であっても、万能というわけにはいかないのは言うまでもありません。

『ウィズダム英和辞典』の英検2級の長文問題のカバー率(本文の単語が辞書の見出し語一覧に含まれる割合)は94.9%にとど­まり、さらに英検1級となると、その数字は90.3%にまで落ちるというデータもあります(こちら参照)。言葉にはつねに特殊な固有名詞や専門用語が含まれ、また時代とともに言葉も変化してい­くわけで、生きた文章のすべてを一冊の辞書に収めることは本来不可能でしょう。いずれにせよこのデータは、大学生がその学習レベルにふさわしい文章を読んでいれば、一定の割合で必然的に学習辞典ではカバーしきれない単語に出会うことを示しています。

三省堂のサイトより
三省堂のサイトより

ですから、学習英和に収緑されていない語­彙を収める大型の英和辞典が、大学生活のなかではやはり必要になるわけです。これが「大辞典」と呼ばれるクラスの英和辞典です。

上級学習英和辞典が郊外都市の総合スーパーだとするなら、英和大辞典は、池袋西武、新宿伊勢丹、横浜そごうのような、伝統ある大都市大型百貨店というところでしょうか(関東以外のかた、伝わりにくくてすみません)。

すでに述べたように、基本的情報を調べる役目は、つねに改訂されている学習英和辞典に任せましょう。そして、そこで見つけられない特殊な単語や表現、派生語や複合語などを見つけたいとき、語源を調べたいとき、あるいは固有名詞や専門用語をネット検索するまえに、より安心できる情報がないか確認したいとき、そんなときが、英和大辞典の出番になります。

大学生活をはじめるにあたって、以下の3つの英和大辞典のうちどれかひとつはもっていなければなりません。

  • ジーニアス英和大辞典(大修館書店)
  • 新英和大辞典(研究社)
  • ランダムハウス英和大辞典(小学館)

これらは25万5千~34万5千という語彙を収録しており、例文も豊富です。これに加えて、47万語を収めるリー­ダーズ英和辞典とリーダーズ・プラス(研究社)のセットがあれば万全です。

電子辞書「大学生モデル」は買うな③ 〜上級学習英和の実力

高校生モデルの電子辞書が採用している「上級学習英和辞典」の話を続けます。

このクラスの英和辞典は、このうえのクラスの大辞典に比べ利用者の幅が広く、各社の競合も激しいので、それぞれ読者をとらえるための工夫がなされていて、改訂も頻繁です。ジーニアス、ウィズダム、オーレックスの最新版は、それぞれ2014年、2018年、2016年に出版されています。

そのため、最新の英語学の研究の成果をいちはやく取り入れるのもまた、これらの上級学習辞典なのです。先述の関山先生は、『ウィズダム英和辞典』について、こう説明しています。「文法書、語法書顔負けの詳しい囲み記事やコーパスを検索した結果に基づいた詳細な記述は、他のタイプの辞書の追随を許しません。統語論、意味論、語法研究といった,英語学の最新の知見が惜しみなく本文に反映されているため、私を含め、研究者が真っ先に手をのばす辞書でもあります。」(こちらを参照)

世の中には収録語数の多い辞書ほどよいとする信仰も根強くあります。思うにそうした考えかたをする人々のなかには、上級学習英和の日進月歩の時代(ジーニアス英和辞典(1987年初版)が先鞭をつけ、ウィズダム英和辞典(2003年)あたりから本格化したと言っていいでしょう)以前に学生時代を過ごされ、辞書についての考えかたがそれ以降アップデートされていないかたも、少なからず含まれているのではないでしょうか。

われわれ日本人にも国語辞典が必要なように、どんなに英語学習レベルが上がったとしても、基本単語の意味を調べ、文法や語法の解説を確認することはつねに必要です。そして、そのために最適な辞書は、英和大辞典ではなく上級学習辞典なのです。実際、英検1級レ­ベルの実力の持ち主でも、このクラスの辞書を愛用しそこから日々新たな知見を得ているものです(こちら参照)。

ましてや大学生なら、上級学習英和を頼る必要のないほどの英語の達人はほとんどいないはずです。高校生モデルは、これらの辞書のほぼ最新版を収録しています。受験勉強が終わったこれからこそ、これらの辞書をメインでフル活用していくべきでしょう。

2020年2月5日水曜日

電子辞書「大学生モデル」は買うな② 〜高校生モデルはまだまだ使える

大学の勉強に立ち向かうのに完全装備とまではいえないにしても、電子辞書に含まれる情報はや­はり厖大です。高校生モデルに含まれていたコンテンツの多くは大学に入ってからも役立ちますし、また役立てるべきです。国語辞典、漢和辞典、百科事典はもちろんのこと、学習者向けの英語辞書(学習英和や英英)も、普段づかいの辞書として、あるいは文法や語法の確認のために、大学生のあいだもつねに座右において参照しつづけましょう。

そもそも高校生モデルには何が入っているのか? 英語の辞書に注目して、その構成をあらためてざっくり確認しておきます。

 高校生モデルにはカシオとシャープが製品を提供していますが、どちらも構成がよ­く似ていて、収録語数10万程度の学習英和辞典が3冊(およびそれぞれに対応する和英辞典)と英英辞典が2冊入っています。

これら学習英和の実力をよく把握しておく必要があります。この10万語とは、いったいどのくらいの数字なのでしょうか。

英検公式ページによると、高校卒業時点の英語学習者の到達段階が英検2級。非公式ですが、英検2級に受かるための目標語彙数は4,000~5,000語とされています。それに対し、英検1級は「大学上級」レベル。しかし実際には、1級合格には10,000~15,000語が必要であるとされ、大半の大学卒業者の実力のはるか上に相当するのは明らかです。これを考えると、10万という数字は大学生には十分なようにも思えるでしょう。

『ウィズダム英和辞典第2版』の共同執筆者のひとりである関山健治氏は、10万語クラスの「上級学習英和辞典」の性格を次のように表現しておられます。「難関大学の英語系学科を受験する高校生,予備校生や大学生,英語教員をはじめとした専門家を対象とした,学習英和辞典の最高峰です。これ1冊あれば,大学受験生から社会人,英語の専門職まであらゆる用途に対応します。」(こちら参照)

関山先生いわく、学習英和辞典は「辞書のコンビニ」とのことですが、ジーニアス、ウィズダム、オーレックスのレベルになるとこの表現はちょっと控えめすぎるようです。このクラスの辞書はいわば総合スーパーのようなもので、高校生モデルの電子辞書を所有しているとは、家の近所にイオンとイトーヨーカドーとダイエーがあるようなものでしょう。

普通に生活していくうえで必要になる基本的な品物は、こうしたお店に行けばたいてい手に入る、そんなイメージです。新学期から一人暮らしを始めようとする大学生も、身近にこれらのお店があればひとまず安心というところでしょうか。




2020年1月26日日曜日

電子辞書「大学生モデル」は買うな① 〜購入を考えている新入生、ちょっと待った!

これから大学生になるみなさんに、ぜひこのブログを読んで欲しいと思います。



春からの大学生活に向けて、新しい辞書の購入を考えているかたは多いでしょう。

はじめにあたりまえのことを確認しておきます。これまで使ってきた「高校生モデル」の電子辞書だけを頼りにただ漫然と講義に臨むような消極的な姿勢では、大学での勉強から多くの成果は期待できません。

講義で読む高度な英文のなかには、学習者向けの英和辞典では調べられない単語やイディ­オム、固有名詞や専門用語が含まれているはずです。また、第二外国語として英語以外の言語を新しく学ぶ場­合は、そのための辞書も必要になります。専門分野に特化した辞書が必要となる場合もあるでしょう。

大学生には大学生にふさわしい辞書が必要です。そしてなにより、それを使いこなす能力が求められます。

ただし、タイトルを見てもらえば分かるとおり、これはよくある「大学生モデル電子辞書のすすめ」などではありません。むしろその逆です。

今までの高校生モデルはすぐに手放さずに、引きつづき使ってかまいません。不足分は、スマホやタブレットを用いれば、辞書アプリやオンライン辞書でほぼ補うことができます。電子辞書に入っているコンテンツの大部分は、今ではこうしたモバイル端末でも、まったく同じあるいは同等のものが利用可能になっていることを知らない人が多すぎます。

自分にとって必要な辞書がきちんと把握できていて、適切な形で補完がなされているならば、「大学­生モデル」の最新型電子辞書を持っていなくてもなんらマイナスにはなりません。そのためのさまざまな方法は、順次解説していきます。

電子辞書は時代遅れのガラパゴス家電

それでも、必要な辞書が全部つまったパッケージが用意されていて、大学側もそれを使うことを推奨しているのだから、大学生モデルを買ったほうがいいのではとあなたは思うかもしれません。

いいえ、それは賢い選択ではない。

なぜなら、電子辞書という製品自体がいまや時代おくれだからです。

かつての紙の辞書に代わって電子辞書が普及したのは、いわば必要悪としてでした。お世辞にもきれいとは言えない小さな画面を少しずつスクロールしながら根気づよく必要な情報を探す苦労が受け入れられたのは、何冊もの重い紙の辞書をつねに引き比べるもっと大きな苦労を電子辞書が取り除いてくれたからです。

しかし、同じように軽く、はるかに画質がよくてサクサク動くスマートフォンというデバイスのなかに好きなだけ辞書をインストールして持ち運べるようになったいま、電子辞書を使いつづける意味ははたしてあるのでしょうか。それだけでなく、スマートフォン用に購入した辞書アプリは、タブレットにもインストールできます。iPadなどのタブレット端末は、今後ますます教育現場に浸透していくでしょう。そのなかに信頼のおける辞書が入っているなら、ますます電子辞書の出番はなくなります。

今日、一般の人たちは電子辞書を買わなくなっています。電子辞書とは、メーカーが中身のほとんど変わらない製品を毎年「新型」と銘打って新入生に買わせることでかろうじて成り立っている斜陽産業なのです。

かつてのワープロ、VHSビデオデッキ、ガラケーのような未来が、やがて電子辞書にもおとずれることでしょう。いま大学の新入生である若者たちも、大学を出るころには電子辞書を手放すことになるでしょう。そして、(まだ向学心が残っているならば)あらためてスマホの辞書を買いなおさなければならなくなるにちがいありません。

ですから、いまこの時代に電子辞書にお金を投資することは賢明ではありません。それくらいなら、いままで慣れ親しんできた古い電子辞書を大事に使い切るほうがいいと思います。そして、やがてスマホの辞書を使うことになるのであれば、いまから少しづつそちらに移行していくべきです。

2010年5月4日火曜日

「勇気を持て!」

トゥルニエの短編では、辞書による読みの違いが生まれる可能性があまり見られなかったと書いた。ただし一箇所だけ、辞書によって訳語がかなり異なる例があった。意外な単語である。

トゥルニエの短編の話者は、二人姉妹の姉のサラの性格を、こんなふうに描写する。

toujours active, prévoyante et courageuse
いつも活発で、目先の利いたしっかり者
サラは「courageuse」なのである。こんな言葉を辞書で引こうとすら思わない人が大半かもしれない。しかしいずれにせよ、これを「勇敢」と訳して違和感を感じない人は少ないのではあるまいか。さらに辞書を引き比べてみれば、われわれは実に興味深いヴァリエーションに遭遇するのである。
勇敢な ― attitude courageuse しっかりした態度(小学館ロベール)
勇敢な、けなげな(ロワイヤル、ディコ)
勇敢な、健気な、元気な、大胆な(クラウン)
勇敢な、勇気のある; 気丈な、けなげな(プチ・ロワイヤル)
勇敢な、気丈な; くじけない(プログレッシブ)
要するに「courageux」であるということは、日本語の「勇敢」であることにくらべて、より広い意味をもっているのだ。「courage」と「勇気」についても同様のことがいえる。「courageux」であるとは、「qui a du courage」(Le Petit Robert)ということにほかならないからである。

上の比較結果がはっきりと示しているのは、一対一対応の訳ではとらえられないこのような単語の意味をより正確に表そうとする意図が、最近の学習仏和に見られるようになっているという事実である。

ちなみに「courage」には、「勇気」、「元気」とはまた別の、「熱意」(プチ・ロワイヤル、クラウン)、「やる気」(ディコ)という意味もある。したがってそれに呼応して、「courageux」にも、「熱心な」、「精力的な」(ロワイヤル、クラウン)、「やる気のある」(ディコ、プチ・ロワイヤル)、「がんばり屋の」(ディコ)といった意味をつけ加えなければならない。ここでもやはり、ディコの提示する訳語の個性、自然さは注目に値する。

しかしいずれにしても、仏和が提出するのはもとの単語の「訳」であって、定義ではない。単語の意味そのものを理解しようと思ったら、仏仏を引くにまさる方法はない。「courageux」が「courage」を持つことであるなら、「courage」とは何か。それが単なる「勇気」でないことを理解するためには、「Bon courage !」という言いかたを思い出してみれば十分である。それはもちろん、「勇気を持て!」という意味ではなく、「がんばれ」、「しっかり」という意味だということは誰でも知っている。

「courage」をLe Petit Larousseで引いてみるとまず、こんなふうに書いてある。
Force de caractère, fermeté que l'on a devant le danger, la souffrance ou dans toute situation difficile à affronter. Cette femme a beaucoup de courage.
物理的・精神的な意味で困難なあらゆる状況で人が持ちうる性格的強さ、あるいは毅然とした態度のことを、フランス語では「courage」というわけだ。

さらに、「熱意」や「やる気」の意味での「courage」には別の定義が与えられている。
Ardeur, zèle pour entreprendre quelque chose ; envie de faire quelque chose. Il n'a pas eu le courage de se lever si tôt.
だから第一の意味での「courage」のところで挙げられていた例文 Cette femme a beaucoup de courage (= est très courageuse) は、「あれは気丈な女だ」、「あの女はしっかり者だ」という意味以外に、たとえばある新入社員について言われたとすると、「彼女はやる気がある」、「がんばり屋だ」みたいな意味にもなるはずだ。トゥルニエの短編の女主人公サラについての「courageuse」にしても、「しっかり者」と訳したが、これを「働き者」と訳す人もいるかもしれない。
仏仏といえばまず名前が挙がるのはLe Petit Robertで、実際自分も翻訳の仕事で役に立っているのは圧倒的にLe Petit Robertの方なのだが、こんなふうに単語の「そもそもの」意味が知りたいなどというときにはLe Petit Larousseの方がしっくりくる。Larousseの辞書は、われわれが国語の辞書を引くような感覚で引くべきなのだと思う。難しい単語や熟語を調べるためではなく、単語本来の意味や定義を知るための、本当の意味で「学習用」の仏仏として使ったとき真価を発揮するのではないだろうか。このような仏仏の使用は、あるレベル以上になると欠かせなくなってくる。

ちなみにフリー・ディクショナリーというオンライン辞書に含まれているフランス語の辞書は、Larousse Pratique(4万語収録、Le Petit Larousseは59,000語)、Larousse Maxipocheなどがベースになっているようです。入門編としては良いかも。私自身もよくここから例文や定義をコピペしたりしています。

学習のための仏和、再再考

続きますと言いつつなかなか続けられなかった辞書に関する話、続けます。

カルチャーでの翻訳講座では、バカロレアについてのエッセイにつづいて、ミシェル・トゥルニエの短編「Les deux sœurs」を読んだ。

で、まず意外なことにというべきか、文学テクストを例にとって辞書を引き比べてみた場合、ジャーナリズム風の文章の時にくらべて、ずっと辞書の間の差が目立ちにくかった。学習仏和を使った場合でも、中辞典、大辞典とくらべて、とくに不都合は感じられなかった。 s’en remettre à(~に頼る、まかせる)、jeter son dévolu sur(~に白羽の矢を立てる)、prendre son parti de(~をあきらめて受け入れる)のような成句だけでなく、Va (Allez) savoir(そいつは分からないな)のような口語表現、「Aide-toi et le ciel t'aidera」(天は自らを助くるものを助く)のような諺、Corbeille [de mariage](男がフィアンセに贈る贈物)のような特殊な語義を、どの学習仏和でも調べることができたのである。フランス語初級者が買うように勧められるこれらの辞書で、トゥルニエの短編のこの2ページほどの抜粋をほぼ完璧に読むことができたのだ。

これはどういうことか。トゥルニエという作家の「古典的」性格のためか。おそらくそれだけではないと思う。

ちなみに、上に挙げた表現の大部分は、Le Petit Larousseには載っていない。だからわれわれのまわりにある学習仏和辞典がどれもこれらの表現を網羅していることは、けっして当たり前のことではない。むしろ驚くべきことなのである。前回触れたように、これらの辞書がフランス語の現用に合わせた改良を行いつつあるのは事実としても、こうした辞書はまずそれ以前にやはり文語志向、文学志向であり、そのような観点からみてもきわめて質の高いものなのだ。

そんなことを考えているうちに、カルチャーでフランス語初級講座が始まった。聴講者の方々が求めているのは、ディコやプチ・ロワイヤルですらなかった。これらはもうすでに、大きすぎ、重すぎ、複雑すぎるのである。かといってロワイヤル・ポッシュは勧められない。

『パスポート初級仏和辞典』はいかがかと尋ねられた。正直いって、開いたことがない。書店でめくってみた。なかなか良さそうな辞書である。少なくとも『ポッシュ』よりはよほど辞書らしい。「アマゾン」で以下のようなコメントをされている方がいた。引用させていただく。
仏和辞典は他にも素晴らしいものが各種ありますが,仏検3級程度まではこの辞書を徹底的に使い込んで基礎を固めるのもいい方法だと思います。その上で,中上級向けの仏和辞典や仏仏辞典,さらには手頃な電子辞書を購入するというのが,最も現実的な選択だと思います。
学習者用仏和をめぐる状況は様変わりしている。あるいは、このような、本当の意味で「学習者用」の良い辞典が充実しているような状況こそ望ましいのかもしれない。

2010年4月8日木曜日

現用主義

相変わらずバカロレアについてのエッセイを例にとりながら、仏和辞典が現代の文章でよく使われる言い回しにどれだけ対応しているかという話。

  • mitigé

このエッセイからの最後の例。今は教職に就いているルグランなる人物が登場してこんなことを言う。
Je garde de cette année un souvenir mitigé.
この一年は私にとって複雑な想い出となって残っています。

この意味でのmitigéはよく目にする。小学館ロベールはmitigéの第一義として、「あいまいな、はっきりしない」を掲げ、以下のような用例を示している。
une attitude mitigée 煮え切らない態度
Le livre n’a obtenu qu’un succès mitigé. その本の評判はいまひとつ芳しくなかった。

いっぽう、mitigéの項でロワイヤルがまず挙げているのは、「緩和された,和らげられた」の意味。(たとえば、「peine mitigée」は「減じられた刑」)。それ以外には、「~の混じった」という意味で用いられる〈mitigé de〉の形を挙げているのみ。「あいまいな」の意味は載せていない。

いろいろな仏仏辞典を引いてみたが、mitigéのもともとの意味は「緩和された,和らげられた」。「混じった」の意味は、mi-の部分が「moitié」を連想させることから生じたもので、誤用とされることが多いとのこと。「あいまいな、はっきりしない」は、さらにこの「混じった」の意味から生まれたものらしい。

言葉の原義を尊重するのか、あるいは現実によく使われる意味を重視するのか。mitigéで引き比べてみると、またも辞書による扱いの違いに興味深い変化が見られる。ロワイヤルは明らかに原義重視で、Le Petit Robertもどちらかといえば原義尊重の方だが、「Emploi critiqué」としながらも、「Des sentiments mitigés」(かたづかない気持ち)の例を挙げている。

反対に、小学館ロベールは今見たとおりの現用重視。Le Petit Larousseも同様。最近の学習仏和も、こちらの方に傾きつつあるのが確認できた。小学館ロベールが1980年代にすでに掲げていた「現用主義」は、今、仏和辞典のスタンダードになりつつある。時代が小学館ロベールに追いついたといった感あり。それだけにこの辞書が以後改訂されていないのは惜しい。そしてなにより残念なのは、CD-ROM版が出ていないこと。電子辞書には入っているのだからできるはずなのに。

さらに、学習仏和4種でmitigéを引き比べてみると、面白いことがわかる。
中途半端な、どっちつかずの、生ぬるい(プチ・ロワイヤル)

芳しくない,ぱっとしない; 中途半端な ―― accueil mitigé 生ぬるい歓迎 / succès mitigé ぱっとしない成功 / attitude mitigée どっちつかずの態度(ディコ)

《話》 混じった、中途半端な(ク)

曖昧な、はっきりしない ―― attitude mitigée 煮え切らない態度 / zèle mitigé 冷めた熱意(プロ)

プチ・ロワイヤルとクラウンは語義だけ、ディコとプログレッシブはそれにプラスして用例を載せている。収録語数の多い辞書では、どうしても用例のためのスペースが犠牲にならざるを得ない。用例はどれも似たり寄ったりだが、このような場合、できるだけ多い方がわかりやすいに決まっている。

現用のフランス語に対応できる即戦力の辞書を作るという小学館ロベールの精神に一番近いのは、このクラスではディコかな。

さらに続きます。

辞書を引き比べてみる

カルチャーの翻訳講座でバカロレア200周年についてのエッセイを読んだ("Le baccalauréat a fêté ses deux cents ans !", Le francais par les textes, PUG, 2003)。

ジャーナリズム文体で、フランス語としてはごく日常的に使われている表現を用いている。案外こういう表現の中に、仏和辞典が対応していないものがあったりするのである。それが、いろいろな仏和を引き比べてみる機会になった。

  • parcours

    たとえばこのエッセイの最初の段落で、バカロレアがこのように定義されている。
    une étape importante dans leur parcours scolaire.
    若者の学歴の中の大事な一ステップ

    この「parcours scolaire」は、「学歴」でいいでしょう。履歴書に、「学歴」、「職歴」って書くときには、「parcours scolaire」、「parcours professionnel」。第一、 「履歴書curriculum vitæ」も、ラテン語で「course de la vie」(人生の歩み)という意味だ。あるいは、雑誌などのインタヴューで「 Quel est votre parcours ?」と言えば、それは 「あなたの経歴をお聞かせいただけますか」ということ。
    Le Petit Robertにも、
    Ils n'ont pas suivi, pas eu le même parcours.
    彼 らはめざすところが違ったし、たどった道も同じではなかった。

    という例がある。(以下、仏仏辞典の例文、エッセイの原文などにつけた訳は拙訳です。ただし、仏和からの例文の場合は、辞書の訳文をそのまま写しています。)

    小学館ロベールは、ずばりこの単語に「経歴」の訳語を当てていて、次のような例文をあげている。

    Il est devenu premier ministre à 37 ans, tous admirent son brillant parcours.
    37歳の若さで彼は首相になったが、このみごとな出世ぶりには誰もが驚嘆している。

    要するに「parcours」には、「行程」や「道のり」以外に、「経歴」、「たどった道」という意味での比喩的意味があるのだが、実はこれを載せていない仏和が意外と多かったりする。小学館ロベール以外では、プチ・ロワイヤル、ディコ、クラウンに、「 (人の)経歴、人生行路」とあるのみ。いずれも用例は挙げていない。しかも、手元にあるハードディスク版のクラウン(中身は第3版だと思う)にはこの意味が出ていないので、おそらく上記三つの辞書のうちのどれかが最近この意味を追加し、他の二つがこれに倣ったのではないかと推察できる。

    これが、競合効果ということ。辞書は新しいほどよい。そしてそれはただ、最新のコンピュータ用語が載っているとかいうことばかりではない。使い勝手という非常に地味なレベルで、仏和はいまだに進化しているのである。

    • lettres de noblesse

    日常的に用いられる比喩的言い回しとしては、次のようなものもあった。
    ce diplôme […] perdrait toutes ses lettres de noblesse.
    この資格はお墨付きを失ってしまうだろう。

    大衆化によるバカロレアの威光の低下を嘆く人々の意見を紹介している箇所。「lettres de noblesse」は文字通りには、「貴族授爵状」(ロワイヤル、プチ・ロワイヤル)のことだが、実際に文章の中で出会う可能性が高いのは、(歴史の専門家でない限り)むしろ比喩的意味のほうでしょう。

    Le Petit Robertは比喩的用法としながら以下の例文を掲げている。
    Ce festival a gagné ses lettres de noblesse.
    おかげでフェスティヴァルの格が上がった。

    たとえば有名人が訪れたことで祭典の重要度が増す、みたいな状況が想像できる。

    インターネットで検索してみると、ネット記事のタイトルでこんなものもあった。
    La science retrouve ses lettres de noblesse avec Obama
    オバマ政権で科学が名誉回復

    仏和だと、小学館ロベールが「Acquérir (conquérir, recevoir, obtenir) ses lettres de noblesse」を成句として載せていて、「(貴族授爵状を得る→)公に名を残す、公認の地位を獲得する」としている。例文はない。普及版ではディコが同様の対処をしていて、「正式に認知される」の訳を当てている。

    • 〈les, ces, ses + différents + 複数名詞〉

    次は語法の問題。
    Aujourd’hui, les différentes classes politiques françaises, [...] semblent plutôt favorables à [...]
    今日、フランスのさまざまな政治階層は、おおむね〔…〕に賛成のようである。

    複数名詞の前について「さまざまな」の意味になる「différent(e)s」 。不定冠詞は省略されるというのは常識だが、定冠詞、指示形容詞、所有形容詞などは付く。たとえばLe Petit Robertには、「les différents sens d'un mot」(一つの語が持っているさまざまな意味)という用例を挙げている。したがって、「冠詞なしで複数名詞の前に置かれる」としか書いていないロワイヤルの説明には明らかに問題がある。

    もちろんそれなりの文法書を見ればきちんとした解説はあるが、この程度のことは辞書に書いておいてほしいところ。この点、小学館ロベールはまさに完璧。

    Le Premier ministre nomme les responsables des différents établissements publics.
    首相はいろいろな公共機関の責任者を任命する。

    この文章がいいたいのは、首相がその責任者を任命する公共機関が「いろいろある」ということではない。いろいろある公共機関の責任者を首相が「みなひっくるめて」任命するということなのだ。つまり、定冠詞が付くことによって、「いろいろ」のニュアンスに、「全部」のニュアンスが加えられるということ。小学館ロベールはさらに、次の2例を比較対照させている。
    dans différents pays de l’Asie アジアのいくつかの国々で
    dans les [ces] différents pays de l’Asie アジア諸国で

    普及版の仏和でこの点に触れているのは、プチ・ロワイヤル、白水社ラルース、そしてプログレッシブだった。とくに説明、用例ともに十分といえるのは、白水社ラルース(さすがに読むための辞典というだけある)とプログレッシブ。
    Ces différents journaux ne m'intéressent pas. Trouvez-m'en d'autres.
    これらの新聞には興味がありません。ほかのを見せてくださ い。(白水社ラルース)

    Ses différents travaux sont tous bien accueillis par le public.
    彼(女)の多岐にわたる著作はどれも好評を得ている。(プログレッシブ)

    この話題、まだまだ続きます。

    学習のための仏和辞典、再考

    学生のころは「ロワイヤル」全盛だった。初級でもういきなりロワイヤルを買って、引きまくった。「プチ」のほうもすでにあったが、見向きもしなかった。本当のロワイヤルを文字通り使いつぶして、すぐさま2冊目を買った。これも今はもう表紙が取れそうになっている。そのうち、「ディコ」なる辞書が登場して(93年)、結構話題になった。もちろん、見向きもしなかった。途中で「スタンダード」に浮気してみたこともあったし、仏仏も使うようになったけど、それでもほぼ一貫して、座右の仏和といえばロワイヤルだった。

    昔は、本格的にフランス語を勉強するなら早い段階から中辞典を使えというのが常識だった。今でも基本的にそれは変わらないのだろうけれど、でもちょっと事情が変わっている気がする。翻訳の仕事をするようになってから、改めて仏和をよく使うようになった。教師になったので、辞書についてのアドバイスをしなければならなくなった。学習者用仏和をいろいろながめてみた。仏和辞典をめぐる状況は様変わりしていると思う。

    まずは、何があるのかリストにしてみた(参考はこちら)。

    • 学習仏和辞典
    『プログレッシブ仏和辞典 第2版』、小学館、2008年3月、3780円(税込)。
    『クラウン仏和辞典 第6版』、三省堂、2006年1月、3900円。
    『Le Dico 現代フランス語辞典』、白水社、2003年3月、3800円。
    『プチ・ロワイヤル仏和辞典 第3版』、旺文社、2003年1月、3885円。
    『白水社 ラルース仏和辞典』、白水社、2001年、4200円。
    『ジュネス仏和辞典』、大修館書店、1993年、3500円。
    • 仏和中辞典
    『ロワイヤル仏和中辞典 第2版』、CD-ROM付、旺文社、2005年2月、6300円。
    『新スタンダード仏和辞典』、大修館書店、1987年、3914円。
    • 仏和大辞典
    『小学館ロベール仏和大辞典』、小学館、1988年、28000円。
    『仏和大辞典』、白水社、1981年、28000円。

    とにかく、学習仏和のカテゴリーの充実ぶりがすごい。逆に言えば、中・大辞典の所のさびしさが目立つ。「ロワイヤル」と「小学館ロベール」は、不動の大関、横綱という感じだけれど、不幸なことにライバルがいない。(「スタンダード」と「白水社大辞典」はすでに引退というべきか。)ライバルがいてこその切磋琢磨が、このレベルには存在していない。残念。

    学習仏和の今の興隆の牽引力の一つになったのは、明らかに5年に一度ずつの改訂を重ねてきた「クラウン」のまじめさとバイタリティー。それも、ただ新語を取り入れるだの、語彙を増やすだの、表層的な改良にとどまらない。使いやすい辞書をめざして、一般的な単語に関しても訳語の工夫を重ねている。あとは「ディコ」の登場も大きかったのだろうと思う。初版当時は、それまで「たぶん」、「おそらく」とされてきたpeut-êtreに、はじめて「…かもしれない」の訳語をあてたなどというのが話題になりました(「たぶん」なら、probablementだものね)。「ディコ」はそういうところのセンスがよい。「プチ・ロワイヤル」は、兄貴の良いところを受けついでいる上に、ほかの辞書もよく研究しているという気がする。

    学習仏和のリストにあるもののうち、上の4つは甲乙つけがたい。収録語数が8000の「白水社ラルース」は引くための辞書ではなく、読むための辞書だから種類が違う。じゃあ、初学者が買うならどれがいいのか。個人的には、比べてみた結果、「ディコ」か「プログレッシブ」がいいと思った。「クラウン」や「プチ・ロワイヤル」は、これ一冊でまかないたいという人の要望に答えようという欲がある気がする。そのために収録語数が多すぎて、用例のためのスペースが犠牲になっている。

    この話題、しばらく続きます。